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奄美大島(17・半夏生)《前編》


 本土のぐずついた空模様とは違い、奄美空港に照りつける日差しは、すでに真夏の色合いだった。

 同じバニラエアJW825便に乗り合わせたM君と軽く挨拶を交わし、荷物を預けたKkさんを待って、空港のロビーでYさんと合流。Yさんは、ひと足早く現地入りしていて、バナナトラップを仕掛けるべく島内を巡ったあと、ボクら二人を迎えに来てくれていた。

 M君とはここでお別れ。彼は単独での弾丸採集行だ。


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「豆腐料理は、どうですか?」

 レンタカーのハンドルを握るYさんからそんな提案があったのは、1つ目のポイントで仕掛けを準備し、宿泊先の名瀬に向かう道すがらでのこと。時刻はすでに夕方5時過ぎだった。

「いいですね、主食ですよ」

 とボク。事実、夕食は米ではなく、豆腐料理が中心になって久しかった。Kkさんも同意してくださったので、まずは腹ごしらえに、豆腐料理専門店へ立ち寄ることになった。


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 レトロな雰囲気が残る店内に入ると、モンステラ属の大きな葉が茂り、小さな赤い花が咲く中庭が、大きなガラス窓の向こうに見えていた。オーダーを聞きに来た女性も、どことなく欧米文化に翻弄される前の、古き良き時代の日本人(原日本人)の面持ちだ。

 旅慣れたYさんならではの選択。バナトラのこともあって、ボクは感謝の気持ちでいっぱいになった。


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 ファストフード店では決して味わえない、質素で健康的な料理を堪能したあと、レジ横に置かれていた「ミキ」に目が止まった。奄美大島の「ミキ」は、独自の製法でつくられる発酵飲料で、簡単にいうと、アルコールの発酵過程を抜かした段階のものらしい。
 御神酒を「おみき」と読ませるのも、おそらくこれがルーツで、あとから漢字をあてたのだろうと思う。


 宿泊先近くの名瀬港は、海上保安庁の巡視船「あまぎ」が停泊する港で、全長241メートル、全幅29,6メートルの豪華クルーズ客船「飛鳥Ⅱ」クラスでさえ、無理なく接岸できる水深を誇る。急角度で海底からそびえ立ち、平野部が極めて少ないこの島の地形は、ノルウエーあたりのフィヨルドのようでもある。

 また、巡視船の名称が「あまみ」ではなく「あまぎ」だったことが、南西諸島西岸から伊豆半島沖合いまでを、大きく蛇行しながら流れる黒潮潮流の雄大な息吹きをイメージさせた。
 入り江で見かけた、今にも歩き出しそうなマングローブの幼木と、フィヨルドにも似た黒褐色の古い大地とが、ここ奄美大島の第一印象だった。

 やがてホテルに着き、ボクら三人は、荷物を整理しながら夜になるのを待った。


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 車は主要道路から山間部へと入る。トンネルを抜けてからというもの、市街地から隔絶されたような黒々とした風景が続く。途中スクーターに跨がり、器用にアクセル操作をしながら、手に持った大光量のライトで山側を照射する人に出会った。

「何をしているんですかね?」

 窓の外を指差し、そんな疑問を投げかけたのは助手席のKkさん。

「乗り物と装備からして、地元の人なのは確かですが…」

 と言葉が続く。

「さぁ、少なくとも同業者じゃないみたいですね。パトロールとも思えないし……」


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 そう答えたYさんは、どことなく落ち着かない素振りだった。きっと、バナトラを仕掛けた場所や、結果をみてその後どうするか? …等々で、頭がいっぱいなのだろう。詳細は後述するが、離島での採集経験が豊富なYさんを、そんなふうに悩ませるきっかけになったのは、地元の新聞社が取り上げた採集(バナトラ)に関する記事だった。

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